継承語としての日本語

2009年11月に、以前のブログで「継承語(=”heritage language”)」について書きました。そのブログは既に非公開とさせていただいており、記事自体を読むことはできませんが(あまり大したことを書いていませんw)、言いたかったことは大体こういうことです。

継承語とは「他言語としての現地語が主流の社会の中で、日本人の片親、あるいは両親から家庭内においてのみ自然に、あるいは人為的努力を伴って習得される言語」と定義できる。国際結婚カップルが子供に日本語を習得させたいとした場合、そのための政策は存在しないことから、個人で親の母語(=非現地語)継承の努力を行わざるを得ない。

当時はまだあまり文献が見つからず、かつ政策対象としての「継承語」が議論の主題になっていたきらいがありました。それゆえ、定義そのものが自分の置かれた問題領域に適していなかったので、その定義づけから出発しなければならないのでした。

また、いわゆる「継承語」の動的な姿ー継承語と現地語の緊張関係ーなどにも、あまり意識が向けられているようには思えませんでした。

例えば、就学前は家庭内で最も流通している言語(=最も接する機会の多い親の言語)を子供は身につけますが、現地社会に出る機会が増えると必然的に家庭外での主流言語が強くなり、それまでの家庭内言語が退行するといったような、ある種の「揺れ」は経験的にも確認できるはずです。こうした点がまだ議論に取り込まれていなかったように感じたのでした。

それゆえ、あえてターゲット言語を日本語、現場を国際結婚カップル組家庭と定めて、経験を交えながらいろいろ書き連ねたのでした。

 

あれから五年半ほどが過ぎ、今、改めて「継承語」をキーワードに検索をかけてみたところ、私が念頭に置いた継承語問題に対する関心が以前より広がってきているなとの印象を持ちました。

今回、問題提起「JHLの枠組みと課題-JSL/JFLとどう違うか」といった文書を見つけることができましたが、以前は見つけられなかった文書です。

 

こうした変化は次のように言い換えられるのだと思います。つまり、私が以前の記事を書いた当時は、日本語をめぐる継承語問題はあくまで各家庭のプライベートな問題でした。「子供に日本語が話せるようになってほしい」という共通の思いはあったとしても、「ではどうするのがいいのか」という部分では何も共有しえていないという状態でした。結局、

日本語を身につけさせるには補習校に通わせなくちゃ。

というのが唯一知られた選択肢でした。

今、国際結婚カップルの子供たちは、国語でもない、外国語でもない、継承語としての日本語を身に付けなければならないのではないか、そして、そのためには継承語というゴールが何かを知り、それを教授するための特別な工夫をしなければならないのではないか、という段階に差し掛かっているのではないかと思います。

いわば家庭の問題が外側に飛び出し、共通のゴールに向かって転がり始めたということです。

 

こうした変化を象徴するような動きを発見しました。フランクフルト継承日本語教室『陽だまり』です。

いやはや、恐れ入谷の鬼子母神です。

この学校はまさしく「国語としての日本語」ではなく、また「外国語としての日本語」でもない、「継承語としての日本語」を教授することを念頭に置いた学校です。

その設立趣旨、継承語の位置付け、教育への取り組み姿勢のいずれをみても、先にリンクに示したような学術的な裏付けに支えられています。

 

普段は外国人に日本語を教えていて(ここでは自分が外国人ですね)、同時に、家庭内では子供に日本語を身に付けさせたいと悪銭苦闘している経験から、かなり以前に気がついていました。私が教室で扱っているのは「外国語としての日本語」であり、補習校で教えてもらっているのは「国語」である。その両者の間にあるのが、家庭内で教えようとしている日本語であると。

ホームメイド社会科などと銘打って、実験的にではあれ、独自に文部科学省の指導要領を小馬鹿にしたような家庭内講座を持っているのもそのためです。

ダブルの子供たちに日本語を教えるにはどうしたらいいのか。

まだ教科書すらないこの領域で、何か光明を見出せればとの思いでスタートしたわけですが、今回発見した「継承語」をめぐる動きには、個人的に大いに勇気付けられた気がします。

 

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2 comments

  • はじめましてハンガリー在住のせいじと申します。ハンガリーにも日本語補習校とは別に「継承日本語」のグループがあります。8年前に立ち上げて我が家の子どもたちも現在そちらに通っています。「補習校」といっても寺子屋のようなところもあるようで、現在フランス、イタリア、オーストラリア、クロアチアにあるそのような寺子屋タイプの子供達とゆるやかな交流(年に1~2回はがきを出し合う交流)を行っています。またポーランドには「ちびワル」という非常にユニークな活動をしている団体があります。なんばかいさんのグループの生徒さんたちとも何らかの形でつながれると嬉しいです。

    • はじめまして、せいじ様

      コメントありがとうございます。
      継承語で日本語を学習させようという試みはかなり広まっているようですね。私が個人的にこの概念に気づいた頃に比べると驚くほどの速さです。

      私のところの試みはまだまだ始まったばかりで、実際に立ち上げとまでいけるかどうかは不透明です。でも私は継承語の問題は子供の健全な発達に関わる重要事項だとも思っています。一人でも多くの子供にこの機会を手にすることができるよう最善を尽くしたいと思います。

      無事に継承語学校の立ち上げに至りましたら是非交流の仲間に入れてください。

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