九九チャンピオン

日本の小学校二年生の算数における目玉。それはなんと言っても九九でしょう。

「いんいちがいち」から始まって、「くくはちじゅういち」で締める。日本人は口を揃えて「便利だ!便利だ!」と言います。これを既に頭に刻んでいる大人は、子供が必死で覚えようとしている姿を見て、「こんな素晴らしい日本のシステムは是非覚えたほうがいい」と、その背中を露ほどの疑問も持たずプッシュしているはずです。

九九に関しては、もちろんベルギーの学校でも二年生で勉強します。他の国でも大方同じでしょう。

しかし、こちらの覚え方は日本の九九のような語呂合わせ式ではありません。もっとストレートに”3 x 3″から直接9を導くという無味乾燥直感式です。日本人のように「さざんが」といったフレーズを経由することはないです。”3 x 3″を視覚的に認識して9という数字を思い浮かべる、簡単に言えばこんな感じで、覚え方としては、ひらがなやカタカナを覚えた時のやり方と同じです。

あ → a   い → i   う → u

え → e   お → o

このシステムが、

3 x 1 → 3   3 x 2 → 6   3 x 3 → 9

3 x 4 → 12   3 x 5 → 15

としてそのまま利用されているわけです。



実は、娘は文字も九九も割とあっさり覚えましたが、長男はどちらかといえば手を焼いた方でした。
七の段を過ぎたあたりからなかなか頭に入らず、「3×8と8×3、4×8と8×4は同じ」と教えてもリアクションは「???」でした。よく考えれば、かけ算の数字を入れ替えても答えは同じですが、日本の九九のように音にすればそれらは別物になってしまうからです。「さんぱ」と「はっさん」、「しわ」と「はっし」というように。
結局気づいたことは、

日本式の九九学習の隠された難しさは数字の読み方の多様性ではないか。

ということでした。

上の例のうち、「さんいちがさん」と「さんにがろく」はいいとして、「さざんがく」では3が「さ」や「ざん」になっています。「さんしじゅうに」では今度は「が」が抜け落ちています。八の段の音はさらにややこしくなります。

数字の語呂合わせなどは大人の日本人にとって至極あたりまえで、電話番号も覚えやすい語呂合わせでアナウンスされるぐらいです。「やっぱりよいふろ」とか「みよいくろぐろ」です。

何てことのない日常風景ですが、こんな何気ないことが「数字の名前は一つ!」の世界に住んでいる人には混乱の元になるのです。それは大人に日本語の時間や日付の読み方を教えるときにも痛切に感じていました。教室で自分に飛んでくる視線が痛い、痛い!

 

日本人家庭の子供なら「飴が一個」と「飴が一つ」を普通に耳にしていると思います。そして、両者がともに”one candy” ということも理解できているはずです。つまり”ikko = hitotsu”の等式が成り立っているはずです。ノン・ネイティブの場合この等式は身についていないです。

つまり、日本の九九の練習とは、算数と国語、それから「が」がついたり落ちたりするときのリズム(この場合、五七五の「五」という日本人に馴染みのある長さ)を覚えさせられようとしているわけです。たかが掛け算に文化が仕込まれているというカラクリです。これ、ノン・ネイティブの小学二年生にしては結構複雑なことをさせられていると思います。あ、今一瞬、かわいそうなことをしたと思いました。

幸いにして、去年の長男の担任の先生は「日本式でも、ベルギー式でも九九を覚えればいいです」との立場だったのですが、その通りですよね。

 

現地校の九九学習もそろそろ最終局面に入っているようです。補習校で苦労した分、今長男にとって現地校の算数はど楽勝なんだそうで、ゲーム形式での計算練習では何度も一番になるので、チャンピオン・カップ(その日の勝者はそれを自分の机に飾っていいらしいです)は五回連続でしか取れないという後出しジャンケンのルール改正まであったそうです。先週の三分間九九勝負では唯一全段全問正解も成し遂げたそうです。

でも、果たして彼の頭の中に今も「ににんがし」と響いているのでしょうか。もし、もう消え去ってしまったサウンドなら、そして、それでも間違えずに九九の計算ができるのなら、このままそっとしておいてもいいのではないかと思いました。苦労はしましたが・・・。

スポンサードリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA