補習校に通わせないという戦略

去年の夏休み中、フィールドワークとして補習校に通わせていない国際結婚家庭日本人親にインタビューをしました。自分も含めた日本人学校補習授業校(以下補習校)に子供を通わせていない日本人親が、子供の日本語継承についてどんなイメージを持っているのか知りたかったからです。結果は論文にまとめるつもりだったんですが、調べていくうちに締め切り前にもう少し追加調査をしたくなったので提出自体を延期しました。本エントリーはその要点を備忘録として書き記したものです。

 

そもそも私の調べた限りにおいて、先行研究の多く(というか、自分が知る限り全部)で「補習校に子供を通わせている親(以下補習校組)=日本語継承に積極的、補習校に子供を通わせていない親(以下非補習校組)=日本語継承に非積極的」という等式が無批判に流布しているように感じます。そのため、後者にほとんど関心が向けられることはないようです。

我が家も次男からは非補習校組ですが、自分自身を省みた時、日本語継承に非積極的とは毛頭思っていません。このことは、同じような境遇にある他の日本人の親御さんと話をしてみても感じる思いでした。

 

本当に非補習校組は日本語継承に非積極的なのか?

 

この点の確認をしてみたくなったわけです。

何より、海外永住邦人数と各地の補習校の数・在籍児童/生徒数からすると非補習校組の方が多数派であると推察され、もしそうであれば、非補習校組を研究対象からバッサリ切ってしまうことは実態の多くの部分を切り捨てることにもなるという危惧を抱いたからでもあります。

 

インタビューは現在補習校に子供を通わせていない国際結婚家庭の日本人親に日本語継承について尋ねたものです。いずれの家庭も現在補習校に子供を通わせていないものの過去に通わせていた、入学説明会に参加した、入学願書に必要事項を記入したが提出しなかった、自分がかつて通っていた等、補習校とどこかで接点を持っています。

インタビューの結果、浮き上がってきた諸点は次の通りです。

 

非補習校組の共通点

非補習校組の日本人親が一様に指摘していたことは大体以下のようにまとめられました。

  1. 親が日本人といえども現地社会で育つ国際児にとって、ここでの適応が最重要課題である。ベルギー社会では日本語は必ずしも必要とされておらず、それよりも現地の教育を優先したい(現地教育優先)。
  2. 日本語は本人がやりたいと思った時に始めればいい(本人の意思の尊重)。
  3. ただし、将来の本人の意思の手助けとなるよう土台や素地といったものは持たせてやりたい(日本語の基礎学習奨励)。
  4. そのためには国語教育のように「読み・書き」を重視せず、日本語での無理のない日常会話(日本語・他言語まじりの会話を含む)ぐらいは維持したい(部分的能力の受容/独自の評価基準)。
  5. 補習校は国際児の居場所ではないと感じた(日本式教育制度に対する違和感)。
  6. 補習校を諦めることで、その時間・リソースを他の活動に使える(他の選択肢の重視)。
  7. 日本に関心を持ってくれると嬉しい(肯定的評価の期待)。

 

以上の1, 2, 4, 5, 6はそのまま補習校を選択しなかった理由にもなっていますが、それ以外にも家庭によっては以下のような理由が出されました。

  1. 距離的/経済的負担が大きすぎる。
  2. 補習校の教室風景に日本人としてノスタルジーを感じたが、子供にとっては全てが初めて見る光景。親の感傷だけで子供の通学を強いるべきではない。
  3. 補習校の代わりに日本で体験入学をさせる。

 

補習校組との共通点

補習校組と非補習校組の考え方が全く交わることがないかと言われれば、そうでもありません。一部の非補習校組の思いには以下のような補習校組との共通点も見られました。

  1. 日本人親として伝えられるものが日本語・日本文化であり、できるならばそれを伝えたい(日本語・日本文化継承への願望)。
  2. 日本の家族とのコミュニケーションを可能にする程度の日本語能力は実現したい(日本の家族との繋がり)。

 

非補習校組は日本語継承に非積極的か?

積極的・非積極的をどう定義するかという問題もありますが、文科省の指導要領に沿って課される学習をこなし、他の可能性に優先して日本語を学習させることが「積極的」とするなら、なるほど、補習校組以外は「非積極的」と言わざるをえないかもしれません。しかし、では日本語継承に無関心か否かという視点で判断するとするなら、多くの非補習校組も日本語との関わりを何らかの形で意識し、働きかけを行っているという点で「積極的」と評せるのではないかと思います。

一様ではないものの、非補習校組もそれぞれの判断(現地教育第一)と戦略(本人の意思を待ち、それまでは素地を持たせる程度にさせる)を持ちながら、日本と日本社会・文化への関わりを子供に持たせる工夫と努力(日本語での日常会話や休暇帰国時の体験入学)をし、子供からの日本語と日本文化への肯定的評価を期待している点で補習校組に負けず劣らず「積極的」と言える気もします。少なくとも、この部分を研究対象から完全に切り捨てたのでは継承日本語の実態を語ることにはならないように思います。

 

今後も様々な理由で補習校を選択しなかった日本人親の日本語継承戦略について考えていきたいと思います。とりわけ今回のインタビューで浮かんできた「土台/素地」の中身を考えることは、就学前学習以後の継承日本語の教授法・教材・評価法を考える上で重要になってくるのではないかと思った次第です。

インタビューにご協力いただいた皆様にはここで改めて御礼申し上げます。

 

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4 comments

  • 初めまして!Facebookグループから来ました。韓国で2人の子供を日韓バイリンガルにしようと頑張っています。補習校ですが、非補習校組の方々は距離や条件(定員に余裕があるなど)に通えないことはないのに補習校に通わないことを選択している人もいる、ということですね。かなり興味深いです。私が住んでいる韓国には日本人学校はありますが補習校と呼べるものがないに等しいです(過去にはありましたが・・・)。それでもやはり戦略というか通信教育の海外受講、一時帰国の体験入学、親同士で集まって日本語で遊ばせる、学習プリントを一緒にやるなど、できることをやっているようです。ブログを読んで「もし韓国にも補習校ができたらどうなるかな・・・?」と考えるきっかけになりました。ありがとうございます!

    • Mame Chang様、はじめまして。コメントありがとうございます。
      以前、韓国の日本語継承に関する論文を読んでいた時に、韓国に補習校がないというのを知って驚きました。結構日本人も住んでいそうなのであるものだと思っていました。
      補習校通いは正直、親にも子供にも結構な負担になります。三年生以上になると内容も難しく、漢字学習も結構あるので「これってどうよ?」という気分にもなります。それぞれの国の教育事情、現地での日本語の威信などを考えながら進む道を選択するしかないですね。我が家も次男の性格から補習校を諦めましたが、それでもできることをやってみようと手探りの最中です。
      今後も何か皆様のお役に立てるような情報発信に努めたいと思います。よろしくお願いします。

  • はじめまして、FB日本語継承目指す親の会グループから参りました。
    我が家はオーストラリア・シドニーで補習校には息子が4才、5才の時の2年間通いました。
    その年齢の子には文化継承という事で、とても有意義な2年間をすごしましたが、小学校低学年から中学年までは家庭で基礎をしっかりやったほうが、充実するのではないかという意向で、現在中断しています。 継承日本語重視の補習校だったので、物足りなさがありましたが、もう一つ別の補習校は日本の教科書にのっとり、しっかりやっているようですが、そうなると宿題が多く、子どもが日本語嫌いになりそうで、通わすのを見合わせました。 
    一概に補習校といってもレベルやカリキュラムのあり方など、難しいなと思っております。 今後子どもの学齢があがり親の手に負えなくなったら補習校もありかな、と考えています。

    世界の様々な国の補習校ではどんな授業が行われているのか、興味深いです。

    • 初めまして。コメントありがとうございます。
      ご紹介いただいた二つの補習校ですが、前者はいわゆる継承語学校、後者は一般に日本人学校補習授業校と呼ばれているものではないかと思います。本エントリーで「補習校」とさせていただいたものですね。
      補習校はいずれ日本に帰国する子供達のための、日本と同じカリキュラムで運営される学校であり、継承語学校は海外永住予定の日系国際児向けの教育機関で、当然内容も違っています。というか、違いを出そうとしているようです。ただ、では「補習校とはどう内容が違うのか?」という問題意識で継承語学校を観察させていただくと、なかなかはっきりとした教育的な核のようなものが描ききれていないような印象もあります。あくまで個人的見解ですが。
      「継承日本語を学ぶとはどういうことなのか」という原点に立った考察が重要なのだと思っていますが、まだまだこれから調べることがたくさんあります。

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