言葉を失った果てに
今年はベルギー観測史上、最も雨量の多い夏となりました。庭の野菜もほとんどナメクジとカタツムリの餌と成り果ててしまいました。100匹以上も駆除し続けたのに・・・。
そんなジメジメした、有るか無きかのごとき夏ももう終わりますが、みなさま、お元気でお過ごしでしょうか。
「継承語は各家庭の問題!」がすっかり枕詞になってしまいました。現地社会で生き抜くために、日本語以外のオールターナティブももっと評価されて然るべきという個人的な思いからそこにたどり着いたのではありますが・・・。
最近、少し気になる本を読みました。吉目木晴彦さんの『寂寥郊野(せきりょうこうや)』という作品です。
あらすじはこうです。
朝鮮戦争時に来日したアメリカ人兵士と結婚し、アメリカに渡った一人の日本人女性・幸恵は貧しいながらも日々平穏に暮らしていました。辛い過去がなかったわけではありませんが、二人の息子も無事家を出、夫の祖国にある小さなコミュニティーに根差しながら、年老いた夫とともに静かに生きていました。そんな生活が突然、暗い影に覆われてゆきます。幸恵がアルツハイマー症を発症してしまうのです。病状の静かな進行とともに幸恵は時間・社会との繋がりを失ってゆき、ついには英語をも失い始めます。やがて残された日本語のわからない夫も次第に地域社会との繋がりを失い始めます。
ネタバレにならないように、内容はこれにとどめておきます。ま、芥川賞受賞作なので、作品のプロットそのものよりも行間の肉付けの方が重要ではあるんですがw。